幽かに生きてる

日常を考えています。日常エッセイ風一人コントブログです。

14は夏

外出先に向かう徒歩移動は灼熱の太陽を直に体感し、ゆっくりと進む時間の中で穏やかに終末を待つ生活の一部分を感じた。都会に乱反射する放射線は逃げ場を失い、日陰でも容赦ない熱気を感じる。肩からストンと落としたような薄手のワンピースの女性の形の浮かんだ尻を追いかけても何も得られない。顔を上げる。歩く腕と指はイヤホンから流れる軽やかな音楽と同期する。

駅に到着し、電車を待つ。ホームの柱の陰からスマホを操作する透き通った白い肌の肉感のある丸っこい手が見える。電車が到着し、一歩前に踏み出すと、柱の陰から登場したのは身長2メートルはあろうかという白人のヒゲ面スキンヘッドだった。その手元を見ると、相変わらずかわいい手をしている。

電車に乗り込む。発進の騒音に負けないようにイヤホンの音量を上げる。前に座る若い女性は携帯を取り出して、ルナルナを見始めた。おっと、見てはいけないものだと、急いで目をそらした。気を紛らわすために、音楽に集中する。しかし、再び覗いてしまう。どうやらカレンダーを開いている。男性の名前とハートマーク。何を確認しているのだろう。いずれにせよ、相手の男性は幸せ者に違いない。
電車を乗り換え、次は座席にありつけた。左前の女性がかわいい。タイプだった。ちらっと見ると、その女性はどこを見るでもなく、ぼんやりと前方を見ている。いや、正確には見ていない。見られている自分を強く意識している。彼女は自分をかわいいと知っている。私は意識して目をそらす。絶対に彼女を見ないようにする。目を閉じて、イヤホンの音量を上げ、自分の世界に入りこんだ。今日は女の子のことばかり、考えている気がする。よくよく考えたら、物心がついてから、ずっと女の子のことばかり考えているような気がする。私は死ぬまで女の子のことを考えていくのだろうか。

夏はすでに始まっている。近々はもういい加減、私に1つや2つの恋愛があってもいいように思えた。というより、無いほうがおかしいだろう。私も年頃の男だ。確かに貧乏ではあるが、確かに積極的ではないが、そこまで生存競争で劣勢に立っているとも思っていない。すれ違う人、電車の中、同窓生との意気投合、何だっていい、この夏の可能性は無限に感じた。

そう思い改札を出ると街中の様子は一変した。世の中を見渡すと女性の多さに驚いた。当たり前のことだが、人間の半数が女性である事実には驚いた。いかに普段接していないかがうかがえた。いかに伏し目がちで生活しているのかに気づいた。それに比べて今の私は堂々としている。自信に満ち溢れている。私は女性をよく見てみた。たまに振り返りもした。しかし、どうしてか急いで目をそらされている気がする。慣れないことをすると勝手がわからない。こんなものなのかと思いつつも、弱気な自分も現れてきた。いや、こんなことで気持ちが折れていてはいけない。私は堂々たる男だ、依然として女性を見続けていた。

猛暑の中、混雑する街中で挙動不審の私は、ついに一人の女性とぶつかった。私は咄嗟に誤った。しかしなぜだか、にやけてしまっている。露骨に嫌な顔をして過ぎ去っていく女性、その表情には憎悪すら感じた。私は愕然とした。その拍子に猛烈な自意識を感じた。暑さも相まって、汗が止まらない。冷静になるため、コンビニに入りトイレに駆け込んだ。ズボンは降ろさず便座に座る。ダメだ。なんだか根本的に間違っている気がする。個室の中では、イヤホンから漏れる音がむなしく響いている。私はトイレで、女性への思いとイヤホンの音が漏れていた事を反省した。